-----BEGIN PGP SIGNED MESSAGE----- Hash: SHA1 - -- 妊娠中のステロイド薬使用について                   やまむら眼科医院 山村 敏明  Sender: owner-i Precedence: bulk Reply-To: yamagk@purple.plala.or.jp Second Opinion - i@mail i@メール お問合わせの多いご質問に対する一般的な回答です。 {インターネット医療相談例} 相談者(ハンドル名T様)のご好意により、相談内容の一部を公開いたします。  [ハンドル名と病名をイニシャル表示し、本文の大部分は省略しましたが、文章は一切修正していません] {要約} 「はやり目」に罹患し、眼科受診したところ、ステロイド点眼液などが処方されました。治療中に妊娠とわかり、眼科主治医に相談したところ、胎児に影響するとの判断でステロイド点眼液の一時中止を指示されました。 質問(Q)と回答(A)では、ステロイド剤の安全性・作用、推測される病名、治療法などについて、ネット医療相談いたしました。 Q1 [2001年**月**日、初回のご質問は掲示板に届きました] 2年ほど前に、はやり眼にかかり、後遺症として白濁が残りました。当初、ステロイド剤(リンデロン)が処方されましたが、妊娠が判り中止、流産したためすぐに再開しましたが、白濁はひどくなっておりかすみ目は残ってしまいました。年月がたち少しはマシになってきたかな?と思っているとまた霞むようになってきて、診察をうけるとC病と言う病名が告げられました。理由は・・・・・。こんなことはありえるのでしょうか?また、C病とはどのような病気でしょうか?治療法は無いとききましたが?M法による治療を進められていますが、どうなんでしょうか?お忙しいところ申し訳ありません。よろしくお願いします。 A1 いくつかの疑問があります。 1)・・・・ 2)ステロイド剤は、妊娠には悪影響はありませんので、中止された理由が不明です。ただし、「ステロイド剤を中止したこと」と「病気の遷延化」との関連性は乏しいと思います。 3)・・・・ Q2  HPにてお伺いいたしました事ですが、拝見いたしまして、まずショックでした。当時、妊娠が判り「ステロイドは大丈夫でしょうか?」の答えが安定期に入るまでは止めましょう」でした。・・・・、いきなりの中止で視界が白くなってきたので、私はステロイドを止めた為のリバウンドが来たと思いました。 残念な事でしたが流産してしまい、点眼を再開したときは片目の濁りはひどかったです。 A2  ステロイドは、慎重に使用しないと、いろいろな副作用を発現します。リバウンドもその1つです。急激な中止は、完治していない病気を再燃させてしまいます。ただし、ステロイドが効いていた証拠でもあります。 ・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・ T様の最終メール  色々とありがとうございました。また、掲示板でなくって個人メールでもこころよく話しを聞いてくださった事に感謝いたします。今度は、妊娠と視力回復のお知らせができたら、いいなぁ・・と勝手なことを思っています。  もしお手間でなかったら、わたしと同じようなケースで悩んでおられる方の為に掲示板へ転送して頂いてかまいませんのでよろしくお願いします。 {解説} マスコミ、雑誌、病院外来などで使用される名称「ステロイド薬(剤)」とは、通常、副腎皮質ステロイドのことです。代表的な医薬品がベタメタゾンであり、商品名の1つに「リンデロン」があります。以前から「リンデロン」などは、通常の使用法であれば、妊娠中に全身投与または局所投与(皮膚科外用薬や点眼薬など)しても安全であることが知られています。 ================================================================== オーストラリア医薬品評価委員会の分類基準(文献1):カテゴリー A ================================================================== カテゴリーA:多数の妊婦および妊娠可能年齢の女性に使用されてきた薬        だが、それによって奇形の頻度や胎児に対する直接・間接        の有害作用の頻度が増大するといういかなる証拠も観察さ        れていない。  もちろん、過剰投与を続けた時や職業的に暴露を受けた時などは、この分類は適用されませんが、一般臨床では、患者様はこのような証拠に基づいた医師の回答を求めています。  一方、「リンデロンA」点眼液に添付された薬品文献には、妊婦への使用に関して、[妊娠中の使用に関する安全性は確立していない],[妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には長期・頻回使用を避けること]と記載されています。 {EBMの重要性} オーストラリア医薬品評価委員会の考え方は、「膨大な過去の文献を調査しても、副作用が発生したという証拠がなかったから最も安全なカテゴリーと考えてよい」です。これは、EBM ( Evidence-Based Medicine )とよばれる医学的判断法です。一方、製薬会社の考え方は、「明らかな副作用が発生したという論文が報告されていないので、現時点では危険であると判断できないが、将来何らかの副作用が発生するかもしれないので、現時点では安全性はわからない」です。 主治医が前者の考え方で回答するか、後者の文献を読んで回答するかで、全く逆の意見となってしまいますね。 {カテゴリー適用外の症例}  ステロイド薬(剤)の1つ、プレドニゾロンもオーストラリア医薬品評価委員会の分類基準において、カテゴリーAです。しかし、治療の第一選択として、本剤を大量に全身投与する病気があります。病名は「原田病」です。ぶどう膜炎の1つで、日本人などの東洋人に多い病気です。プレドニゾロン大量投与時は、上記カテゴリーをそのまま適用することはできませんので、論文の要約を参考までに記載いたます。なお、この病気にとって、妊娠は改善因子となります。 ============== 症 例(文献2) ============== 26才の日本人女性が原田病のため、妊娠18週目にプレドニゾロン大量全身投与(初回一日量120mg)の治療を始め、その後8ヵ月間に及ぶ投薬(漸減投与法)を受けた。出産時、女児は低体重児で、遺伝的な体表奇形がいくつかみられたが、薬剤によると思われる流産や先天異常はなかった。(これまでの報告例や結論に至った理由など詳細に記載されていますが、省略いたします。) - ---------------------------------------------------------------- 参考文献: 1) 雨森良彦監修:妊娠中の投薬とそのリスク(第4次改定版) -オーストラリア医薬品評価委員会 先天異常部会による評価基準. 医薬品・治療研究会編訳・発行(発行日 2001年4月1日) 2) Doi M,他:Vogt-Koyanagi-Harada syndrome in a pregnant patient treated with high-dose systemic corticosteroids. Acta Ophthalmol Scand. 78:93-96(2000年) -----BEGIN PGP SIGNATURE----- Version: GnuPG v1.2.1 (MingW32) iD8DBQE+WHqDWKpMiVYLcIcRArAzAKCNW04SqB1+eIhM524axpyymiRpUwCfcjvL OW12hqu+4DPhmdV20vd+U6E= =vMvR -----END PGP SIGNATURE-----