-----BEGIN PGP SIGNED MESSAGE----- Hash: SHA1 - -- 「老視」のお話 Sender: owner-i Precedence: bulk Reply-To: yamagk@purple.plala.or.jp Second Opinion - i@mail i@メール お問合わせの多いご質問に対する一般的な回答です。 やまむら眼科医院 山村 敏明 通称「ロウガン」 ヒトが物体にピントを合わせながら見る機能を、「眼の調節」と呼びます。 眼の内部に、水晶体とよばれる組織(凸レンズのような形をした透明な組織で、形を変えることができます)があります。 水晶体に   前面の変化   厚さの増加   前方移動 などの形態・位置の変化が起ると、ピントが合うことになります。ヒトの場合は、(1)による変化が調節の大部分を占めているようです。正確には「前面曲率」の変化といいます。(1)(2)の結果、凸レンズの作用が強くなり、近くのものに、ピントが合うことになります。 ちなみに、ネコは、主に(3)による調節であり、4D程度(他の報告によると12D)だそうです。ネコは、元来近視・遠視がないと仮定すると、眼の前8cmまではっきりと獲物が見えることになります。一方、ウサギ、牛はこのようなピント調節機構は発達してないようです。 ヒトのお話にもどります。 調節力 調節力(調節幅ともいいます)は年齢とともに低下します。 30歳代の方の目の調節力は、平均5D-7Dです。 5Dの調節力ですと、(正視の方の場合)眼前20cm近くまで明視できます。読書時、はっきり見えるために必要な調節力は3-4Dですので、まだ、余力(1D-4D)があります。 調節力が著しく低下する年齢は、(自覚的な検査では)45歳といわれております。また、他覚的検査法でしらべると、40歳ぐらいから低下がみられます。つまり、40代前半から、本を少し離して読むか、老眼鏡を使用するか、の選択となるわけです(老視)。一般的に環境照度が低下すると、調節力が低下しますので、暗い所での読書は、より「かすむ」ことになります。 調節に要する時間 調節に要する時間は、加齢とともに、遅れるようになります。 遠くから、近くに視線を移したとき(逆の場合も)、ピントが合うまでに時間がかかるようになってきます。 屈折度の日内変動など 屈折度の日内変動にも、調節が関係しています。一般的に、午後になると、非常に軽い近視状態が起きます。また、暗闇状態や雲のない青空をみたとき(刺激する物が視空間にない状態)も、近視となることが知られています。「夜間近視」とよばれます。照度の低下とともに近視状態は強くなります。また、乱視の眼は、調節時、直乱視が強くなる傾向がありますので、手元のかすみ方が強くなったりします。 調節の衰えは、水晶体の弾力性の低下による 水晶体は年齢とともに弾力性が減少します。水晶体を取り囲む袋(嚢)が硬くなるためです。 水晶体は、生涯を通じて体積が増加しつづける非常にまれな組織です。毛髪、皮膚・粘膜の上皮細胞などは、古くなると自然に脱落してゆくのですが、水晶体では、古くなったものは、次第に水晶体の中央に押し込められます。このため、50歳代の水晶体の厚さは、20歳代の約2倍となります。水晶体の厚さが年齢とともに厚くなることは、いろいろな方法で確認されておりますが、厚さが増しても、あまり屈折度は変化しないようです。 年齢によって、調節緊張状態と未調節状態(調節弛緩)でどのような違いがあるのか? 最新の研究(文献3)をご紹介します。調節緊張とは8D(眼前、約12cmの指標をじっと見た状態)です。画像診断装置 MRI を使った研究です。調節緊張状態と未調節状態(調節弛緩)を比べると、20代、30代の水晶体は、明かに、調節によって厚さや直径が変化します。ところが、40歳以上の水晶体は、水晶体の厚みに差がほとんどみられません。また、水晶体の直径にも変化がみられなくなり、特に50歳を越えますと、変化量はゼロとなっています。 一方、水晶体を支えて、緊張と弛緩の動力源”モーター”となっている毛様体筋も同時に観察できるのですが、この筋肉の変化(収縮)は83歳の最高年齢者でも観察されています。動力(源)としての毛様体筋の収縮力は、50歳が30歳に比べて1.5倍大きいとの他の研究報告もあります。 これまでの多くの研究から、「老視(眼の調節力の衰え)とは、水晶体が弾力性を失い、形が変化しなくなること」と考えてよいようです。これは、約100年前にHessとGullstrandにより、学説として提唱されています。 残念ながら、水晶体の弾力性の低下を予防したり、弾力性を回復させる治療法はないようです。 文献 1) Strenk SA.他:Age-related changes in human ciliary muscle and lens: A Magnetic Resonance Imaging study. Invest Ophthalmol Vis Sci. 1999;40(6):1162-1169. 2) 所 敬著:屈折異常とその矯正. 金原出版社(平成9年第3版) 以 上 -----BEGIN PGP SIGNATURE----- Version: GnuPG v1.2.1 (MingW32) iD8DBQE+WHndWKpMiVYLcIcRAoyaAKCMc3blshFJ6JJ16uMPIfy8FlF6hgCfXUFy Ezg0bnyfO08sPBJwyVohDKQ= =XAGX -----END PGP SIGNATURE-----