-----BEGIN PGP SIGNED MESSAGE----- Hash: SHA1 - -- [1]エキシマレーザーを用いて近視・遠視・乱視を矯正する手術について                  平成12年2月1日掲載 Sender: owner-i Precedence: bulk Reply-To: yamagk@purple.plala.or.jp Second Opinion - i@mail i@メール お問合わせの多いご質問に対する一般的な回答です。 やまむら眼科医院 山村 敏明  1000症例のLASIK(レーシックと呼びます)の治療成績、合併症を解説した1つの外国論文を要約し、ホームページに掲載いたしました。  さて、平成12年1月28日、厚生省はPRKによる屈折矯正術を、対象患者の制限付き(かつ、健康保険非適応)で許可いたしました。しかし、治療法として現在、主流となっているのは執刀医の手術技能・熟練度がより要求されるLASIK法であります。レーザー装置の開発メーカー・販売元は、厚生省の認可後発売を開始しておりますので、今後さまざまな能力レベルの医療機関で、レーザー屈折手術が行われるようになると思われます。しかし、日本の医療事情は今もなお、情報開示・提供には不透明であり、学会等でさかんに論議されていることも、患者様にすべて正しく伝わって行くとは限りません。  どうぞ、ご担当の先生に手術後の改善度などレーザー治療によるメリットを詳しくお尋ねになり、合併症などの問題点もご理解の上、意思決定されますことをお奨めいたします。  レーザー屈折矯正手術について  レーザー光(エキシマレーザー、波長193nm)を角膜に照射し、角膜実質の一部を切削することで、近視、遠視、乱視を矯正する手術のことです。レーザー屈折矯正角膜切除術(PRK)とレーザー角膜内切削形成術(LASIK)とがあります。PRKは照射野の角膜上皮を剥離・除去後にレーザー切削しますが、LASIKでは、角膜上皮およびボウマン膜(本文参照)を温存する点が異なります。このため、LASIKの方が術後の眼痛が少なく、種々の利点(本文参照)があります。しかし、マイクロケラトーム(角膜切開刀)による繊細で重要な操作(PRKにはない)が加わるため、執刀医は角膜切開刀操作の熟練を要します。なお、本論文では、手術に伴う一般的な合併症については述べられておりません(術後感染症など)。 以下に、1998年、Gimbelアイクリニック(カナダ)の HV.Gimbel先生の報告*の要約を掲載いたします。 *文献 Current Opinion in Ophthalmology 9:3-8,1998) LASIKの適応  LASIK(Laser in situ keratomileusis)は1990年、Pallikarisらにより発表された手術手技であります。レーザー屈折矯正角膜切除術(PRK, photorefractive keratectomy)とともに発展してきましたが、強度の近視、軽度・中等度の遠視の矯正にはより良い方法であります。著者らのクリニックを含むいくつかの施設では、軽度の近視眼に対してもLASIKをルーチンに行っております。PRKに比べて、手術後の症状が最小限に抑さえられること、術後早期に視力が回復し、屈折度数が安定すること、合併症である角膜上皮下混濁の頻度がすくないことが優れております。しかし、LASIKはより術者の技術に依存する方法であります。 手術成績     Gimbelら  LASIK施行1000症例の成績   手術前の近視度数 -1.00Dから-23.00D               計1000症例       平均度数 -9.56D        内訳 <-10D   618例            -10D<= <15D 319例            -15D<= <=20D 55例            -20D<      8例   手術術後度数   0D ± 0.50D 58.7%の症例           0D ± 1.00D 83.4%の症例            0D ± 2.00D 95.2%の症例                術後平均観察期間は3.8ヵ月   術後、最良矯正視力の低下(視力検査表の2段階以上低下)例   は1.7%(17名)であった。 訳者注   9施設の近視・遠視眼の治療成績が表で示されているが、省略する。   表中には、術後最良矯正視力の低下(視力検査表の2段階以上低下)   例は近視眼320例中2.5%とするThompson,1998年の報告もみら   れる。 手術手技    医療従事者(医師、手術担当看護婦、オプトメトリスト、レーザー技師、カウンセラー、助手など)のチームワークが重要であることを強調したい。 術前検査として、  視力(裸眼・矯正)、他覚的屈折検査  調節麻痺剤使用前後の屈折検査     角膜形状の検査(角膜曲率、角膜形状解析装置          による角膜トポグラフィ)   角膜厚検査・角膜内皮細胞密度測定  瞳孔径計測(明、薄明)など。  臨床検査はすべて行います。 ガス透過性ハードコンタクトレンズは2週前、ソフトコンタクトレンズは2日前に使用を中止します。   LASIKにより得られる患者の利益とリスクの両方をカウンセリングします。完全な視力改善が保証されているわけではないことを明確にします。手術前に再度、患者に質問・疑問がないか尋ねます。技師によりエキシマレーザー装置に患者データーが入力され、執刀医がチェックします。マイクロ角膜切開刀の状態を確認(ナースに次いで執刀医が)します。正しく組み立てられているか、正常に作動するか、異物が付着していないかなどを確認します。   点眼麻酔をします。角膜上皮に障害が発生するような頻回な点眼はいけません。消毒液(訳者注:日本では商品名イソジン液など)で消毒します。眼の周囲をドレープで被い、開瞼器でまぶたを開けます。器械操作で角膜を傷つけないよう細心の注意をはらい、眼脂など付着していれば BSS液(訳者注:眼科内眼手術で使用する灌流液)の漬いたスポンジでふき取ります。角膜上に位置決めのマークを染色液でつけます。吸引リング(吸引圧65mmHgに設定)をとりつけ、眼圧計で確認します。角膜をBSS液で湿潤状態として、マイクロ角膜切開刀を操作します。吸引リングのスイッチを切り、装置、マイクロ角膜切開刀を取り外します。角膜周囲からの出血をスポンジで取り除き、鑷子(ピンセット)で角膜弁を反転します。   手術中、患者はつねにヘリウムネオンの固視照明を見つづけます。ときに眼位を固定する器具を使用しますが、眼球が回転しないよう、器具で偏心しないように注意しながら行います。レーザー照射後、角膜弁を丁寧に、再びもとにもどします。このとき、灌流液に注意します。角膜実質が湿潤しすぎると、角膜弁と実質との接着が不良となります。ヒアルロン酸ナトリウム液を漬けたスポンジで角膜弁を上からなでるようにして接着を完成します。このとき、角膜弁の位置ずれがないか、創部に異物が付着したままになっていないか詳細に観察します。抗生剤配合ステロイド点眼液、ジクロフェナック消炎剤点眼液、ヒアルロン酸点眼液を点眼します。角膜弁がはがれないように、慎重に開瞼器をはずします。患者には、はずす時に瞼を開けた状態で、上方を見てもらいます。湿潤器(訳者注:ゴーグル状のものと思われます)を眼にあて、角膜弁を加湿し位置ずれを防止します。    術後1週間、睡眠中はこのゴーグルを使用してもらいます。帰宅前に細隙燈顕微鏡を用いて診察し、その後1、2日目、1週、1ヵ月、2ヵ月、3ヶ月、6ヵ月後に診察が必要となります。 合併症    LASIKによる合併症の率は執刀医の経験数の増加とともに急速に減少し、とくに経験豊富な医師のアドバイスがあると顕著です。 1)角膜上皮   上皮障害があると、角膜実質の浮腫と角膜弁の接着不全をおこします。創傷の治癒が遅れると、角膜炎、角膜混濁の危険性が増します。障害上皮の部分に処置を要することがあり、ときに治療用コンタクトレンズを装用します。眼瞼炎・ドライアイなどの外眼部異常がある患者は、術後の角膜上皮ビランがよく出現しますが、これら基礎疾患の適切な治療により改善します。 2)角膜弁   <術中合併症>    角膜穿孔(まれではあるが重症):マイクロ角膜切開刀の組み立て不良、安全装置のない器具を使用したり、正確に挿入されていないときに生じます。   不完全角膜弁:マイクロ角膜切開刀の電気系統の故障、眼瞼・睫毛、開瞼器などが操作の障害となって生じます。       ボタンホール状角膜弁:吸引圧不足、角膜上皮剥離、角膜曲率が過度にフラットな手術眼など生じます。角膜弁が薄すぎると、ボウマン膜(訳者注:角膜上皮の最下層と角膜実質の間にある組織)がレーザー照射野に残ってしまうので、角膜弁を再度作成します。        遊離角膜弁:マイクロ角膜切開刀の不適切な組み立て、角膜曲率がフラットな手術眼、吸引圧の不足で生じます。この場合、角膜弁・角膜実質の両方の表面の状態で、次の手術操作を決めます。角膜弁が強い浮腫を起こしていなければ自然に接着することがありますが、角膜上皮増殖に用心しなければなりません。角膜が深く削られており、表面平滑でなければ、表層角膜移植の適応となります。       角膜弁の接着不全:角膜弁の操作中に過度の灌流をしたり、角膜弁を慎重に取り扱いわないと生じます。4分以上圧迫を加えると接着しますが、成功しないときは縫合します。       異物の混入:涙液・器具のよごれ、手術室の空気中のほこりが創間にトラップされることがあります。視力や創の治癒に影響しないことも多いのですが、手術終了時に灌流して取り除きます。  <術後合併症>    角膜弁のずれ:まばたきの不足による乾燥、灌流過剰・角膜上皮障害による角膜実質の浮腫、角膜弁が遊離したため不安定であったり、誤って眼をこすったため、生じます。ずれの程度により、フラップを再浮遊させて修復したり、ときに縫合します。       角膜弁のしわ:角膜弁の切開が異常であったり、位置ずれが生じた場合に生じます。とくに、強度の近視眼で角膜のレーザー切削を多量に行った場合によくみられます。   上皮増殖:角膜上皮の下まで上皮細胞がはいりこみます。よくみられる合併症であり、多くは角膜周囲の切除縁に発生しますが、視力障害の原因となることがあります。上皮増殖が進行性の場合や角膜弁に障害がでてくると手術による治療を行います。    3)レーザー・屈折面    角膜弁に与える障害:遠視眼治療の際、広範なレーザー治療に伴い発生することがあります。レーザー切削中はスポンジを用いて角膜弁を保護します。       過矯正・低矯正:初回手術から一年を経過すると、追加治療ができます。角膜弁を持ち上げる、または再度マイクロ角膜切開刀を使用します。医原性”角膜拡張症”の予防のため、角膜弁とともに角膜実質の厚さとして200μm以上残さなければなりませんので、術前の角膜厚測定は重要です。著者らによる近視の増強率は約18%でした。       屈折値の戻りと角膜上皮下混濁:これらの合併症はPRKにくらべてLASIKでは少なくなりました。その理由として、LASIKではボウマン膜(前述)が障害されにくいためであろうと考えられています。角膜上皮下混濁は遠視眼でよくみられます。これら合併症に対して、ステロイド点眼液による治療を行っています。上皮下混濁を取り除くには、レーザー切削を併用したPTK(治療的レーザー角膜切除術)が必要となることがあります。       偏心:歪んで見えたり、まぶしく(グレア)なります。一次的なものとして、手術中の患者の固視不良が原因となります。治療法として種々の手技が考案されています。二次的なものとして、角膜上皮下混濁が形成され、創傷治癒が均等に進まないことが原因となります。治療法は治療的レーザー角膜切除術です。   セントラルアイランド:角膜実質の不均一な湿潤状態、レーザー照射で蒸散した蒸気による照射障害から生じます。レーザー装置の性能・特性により、発生率に差があります。まぶしさを自覚したり、ゴースト像が見えたりします。しばしば、術後3-12ヵ月後に自然治癒します。再手術が必要となることがあります。   小さな光学域(Small optical zones):もともと瞳孔の大きい患者、矯正量の多かった患者で、夜間のまぶしさを自覚することが少なくないのですが、通常は自然に消失します。角膜の光学域を拡大する手技があります。       不正乱視:角膜弁の”しわ”が残ると発生することがあります。初回手術直後に発見された場合、角膜弁を再浮遊させて処置しますが、遅れた場合には治療的レーザー角膜切除術または再度角膜弁を持ち上げ、弁のしわが伸びるように器具を用いてマッサージする方法などがあります。   最良矯正視力の低下:視力検査表の2段階以上低下することは少ない(治療成績参照)。                                                          [2]LASIK治療とホームページ 平成12年10月4日掲載                      インターネットを利用すると、レーザー屈折矯正手術を行っている医療施設を簡単に検索できます。眼科医の立場で見ますと、一般の商店のように、手術料・手術説明会の案内などが詳細に掲載されている医療機関のページがあったり、「全ページがLASIK」のサイトもあり、とても驚かされます。  実は、日本眼科学会(眼科専門医の許可証を発行している権威ある学術団体)は、今年(平成12年)5月12日、理事長名でエキシマレーザー屈折矯正手術ガイドライン起草委員会答申を発表しています。日本眼科学会のホームページで、正式なガイドラインを含めて、一般公開されていますが、閲覧は若干の制限付きです(PDF文書のため、閲覧ソフトが必要)。  平成12年5月の答申において、 「現在,レーザー角膜内切削形成(LASIK)手術に関してはマイクロケラトームの使用はまだ厚生省が未承認であり,マスコミやインターネットを利用してのLASIK手術の宣伝は慎むべきである.前回も述べたように日本眼科学会は国民の健全な視機能を守る使命を持っており,本学会会員全員が社会的影響を十分配慮した良識ある行動を取るべきである,と考えている.」  との学会のスタンスが示されています。  エキシマレーザー装置を使用した手術は、今年1月にようやく厚生省が認可しました。いくつかの理由で承認申請後かなりの年数が経っていたため、すでに臨床の現場では、もっと高度の(進歩した)医療が行われているのです。これがLASIK手術です。LASIK手術では、まだ国が承認していない医療器具などを使用しなければ、手術ができないのです。最先端医療の安全性の評価がまだ完了していないということです。  確かに、眼科の学会でもトピックスですが、マスコミが盛んに取り上げたため、オーバヒート気味です。まず、クールに、お願いいたします。  それでは、国内の代表的な検索サイト Yahoo! JAPAN のホームページをご覧下さい。  ジャンル > 健康と医学 > 医学 > 眼科 > 病院、診療所 > 地域情報(都道府県)と選択し、レーザー角膜内切削形成(LASIK)手術が受けられる眼科施設を見て下さい。  10月4日(2000年)、私が調査したところ、Yahoo! JAPANには計42のホームページ(眼科医療施設)が掲載されていました。以下に施設名を列記いたします。   施設名は、都道府県(50音順)> 掲載ジャンル(全国欄) > 掲載ジャンル(地域情報欄)の順としました。 - ----------------------------------------------------------------- 都道    施設名 府県 - ----------------------------------------------------------------- 愛知 眼科杉田病院 - 名古屋市中区 眼科三宅病院 - 名古屋市北区 中京眼科グループ屈折矯正手術センター     ひらばり眼科 茨城 松本眼科     中村眼科医院 愛媛 一色眼科 大阪 西眼科病院 - 大阪市東成区 フジモト整形外科・眼科  坪井眼科 沖縄 安里眼科 神奈川 大関眼科医院 深作眼科 京都 バプテスト眼科クリニック 埼玉 葉山眼科クリニック 東京     恵比寿視力回復研究所     南青山アイクリニック - 港区     済安堂 井上眼科病院 - 千代田区     達洋会 杉田眼科 - 葛飾区     参宮橋アイクリニック - 品川区     錦糸眼科 - 墨田区     吉野眼科クリニック - 台東区     LCAクリニック - 中央区     清水眼科 - 武蔵野市 徳島 藤田眼科 栃木  原眼科病院 - 宇都宮市 富山 富山レーザーアイセンター 小沢眼科 兵庫 中山眼科医院 遠谷眼科 広島 越智眼科 藤原眼科 三好眼科 福井 鯖江清水眼科 福岡 さっか眼科医院 福山眼科 山名眼科 こやのせ眼科クリニック 三重 東海眼科 宮城 古川中央眼科 宮崎  宮崎中央眼科病院 - 宮崎市 山口 一ニ三眼科 - ---------------------------------------------------------------- Yahoo! JAPAN に掲載されているジャンル「眼科」のサイトは合計125でしたので(重複したもの、施設案内でないものは除外しました)、42/125=33.6% の施設がLASIK治療可能ということになります。 日本眼科学会の「警鐘」「憂慮」とは、明らかに異なる結果でありますが、もちろん Yahoo社 には全く責任のないことです。  ここで、権威ある日本眼科学会が平成12年7月10日発表したエキシマレーザー屈折矯正手術のガイドラインの一部を再度引用いたします。  適応症例(手術に該当する条件) 親権者の同意を必要としない20歳以上 エキシマレーザー屈折矯正手術のガイドラインの説明を受け,納得した者 2D以上の不同視、または、2Dを超える角膜乱視、または、3Dを超える屈折度の安定した近視 屈折矯正量はPRK手術に対するエキシマレーザー装置使用の承認条件である6Dを限度とする 10Dを超える屈折矯正は行うべきでない 両眼に手術を行う場合には,他眼の手術時期を慎重に検討し,原則として片眼手術後PRK手術は1か月,LASIK手術は7日以上観察し,その経過が良好なことを確認した上で他眼の手術を行うべきである エキシマレーザー装置を用いる手術は日本眼科学会が指定する講習会を受講した眼科専門医が実施すること  レーザー屈折矯正手術は、これまでの眼科医療とは、まったく質的に異なる医療です。一方、インターネット上で医療情報を提供する際には、一般の医業広告のような厳しいガイドラインは存在しません。医療のユーザー側(患者様)、提供側(医師)双方が、混乱を拡大させないように、冷静に対応されることを切に望みます。 以上 -----BEGIN PGP SIGNATURE----- Version: GnuPG v1.2.1 (MingW32) iD8DBQE+WHmBWKpMiVYLcIcRAre+AJ9WIcTKqWCC1y1aj/JMS7te6OoxQgCdG+s2 ZwiFoYvX9avbWxeFbgym/bQ= =6C9O -----END PGP SIGNATURE-----