-----BEGIN PGP SIGNED MESSAGE----- Hash: SHA1 - -- しろ目(眼球結膜)にできる「キズ」について Sender: owner-i Precedence: bulk Reply-To: yamagk@purple.plala.or.jp Second Opinion - i@mail i@メール お問合わせの多いご質問に対する一般的な回答です。 やまむら眼科医院 山村 敏明  はじめに、同じ病気で、複数の医療機関を受診したとき、眼科医の説明が3通りとなる(可能性のある)一例をお示しいたします。  にごり、混濁、ホシ(星)、キズ、腫れ(ハレ)、炎症、充血、アレルギー、など、いろいろな医学用語や俗称、(方言)・・などが混在したり、処方された点眼液が異なると、主治医の診断・治療法が全く違っているような印象を与えてしまいます。   K診療所A医師:  「しろ目にキズができています。エコリシン点眼液とDMゾロン点眼液を使って下さい。」 X病院B医師:   「しろ目に炎症があります。ノフロ点眼液とフルメトロン点眼液を処方します。」 F大学病院C医師: 「結膜炎の1種です。充血を治すため、クラビット点眼液とリンデロンA点眼液を点眼して下さい。」  瞼裂斑炎(ケンレツハンエン)という病気では、3医師の説明が当てはまります。  主治医の説明(例)  眼球結膜(通称、しろ目)に、小さな隆起したところがあったと思います。くろ目(角膜)の近く(鼻側または耳側)にできるこの黄白色の病変を瞼裂斑(ケンレツハン)といいます。大きさに差はありますが、両眼の鼻側・耳側、4個所にできることが多いです。原因は、弾性線維とよばれる組織が増殖したものです。良性の病変ですので、症状がなければ、治療の必要性はありません。翼状片(ヨクジョウヘン)という病気とは違いますので、視力が低下することはありません。  しかし、時として、瞼裂斑の表面にキズができたり、腫れたり、炎症を起こすことがあります。軽度の充血と痛み、異物感が出ます。これを瞼裂斑炎とよびます。炎症を抑える点眼液(フルメトロン、リンデロンA、DMゾロンなどは商品名。ステロイド系消炎剤)を使用すると、数日で改善しますので、処方いたします。  結膜炎の1つですが、細菌によるものではなく、また伝染する病気でもありません。よって、本来、抗生剤は無効なのですが、ステロイド系消炎剤点眼液を単独で使用すると、感染症を誘発したり、悪化させることがありますので、予防的に抗生剤(ノフロ、エコリシン、クラビットなどは商品名)を併用していただくことがあります。   ”ビトー斑”様(ヨウ)の結膜変化について  瞼裂斑(ケンレツハン)と外見上、区別がつかないほど似た病気です。コンタクトレンズ、特にPMMA素材(旧式)のハードコンタクトレンズを長期間使用された方に見られやすい所見です。  ビトー斑に似た所見が、コンタクトレンズ装用者にみられます。ビタミンAとは直接関係はありません。旧素材のハードコンタクトレンズのユーサーの方は、酸素透過性に優れた高性能のレンズに交換して下さい。”ビトー斑様の結膜変化”が炎症を起こすと、「瞼裂斑炎」と同様な症状を来します。この場合、治療を要します。 くろ目(角膜)にできる「キズ」について くろ目に「キズ」があると担当医から言われましたが、治るのでしょうか?・・・  くろ目(角膜)は、とっても薄い透明な組織です。その厚さは中央部で約 0.5mm しろ目の近くで約 1mm です。  その表面を上皮細胞が、内側を内皮細胞が被っています。中には、角膜実質とよばれる組織があります。  角膜障害の深さにより、病名が変わります(命名は文献1を引用)。  上皮の途中までの欠損であれば、点状表層角膜症 とよびます。  上皮細胞全層の欠損であれば、角膜びらん です  また、上皮の接着障害があって、治り難い角膜びらんを遷延性角膜上皮欠損(センエンセイカクマクジョウヒケッソン)とよびます。  上皮を越えて、角膜実質まで欠損すると、角膜潰瘍(カイヨウ)といいます。  では、どこまでが「キズ」なのでしょうか・・・?。 眼科日常診療では、 点状表層角膜症、角膜びらん を「キズ」とよぶことが多いようですが!?、外傷時の「傷」以外は俗称のように使用されますので、厳密な定義はないとお考え下さい。  点状表層角膜症、角膜びらんは、どちらも、日常診療ではとても多い所見ですが、幸いなことに、治り難い上皮障害ではありません。治り難い「キズ」ではないのです。上皮細胞の源(基底細胞といいます)と上皮細胞の足場(基底膜)が正常なので、原因を治すことで「キズ」も治ります。しかし実際には、原因は、様々なので(たとえば、ドライアイ、角膜ヘルペス・・・)、「キズ」の”なおり易さ”もケースバイケースとなりますが。  くろ目に「キズ」があると担当医から言われた・・・・。 「キズ」ができる原因・病気は****だから、***の治療を受けて下さい・・・とご理解下さい。 <注釈>  翼状片(ヨクジョウヘン)とは・・・  瞼裂斑と同様に、くろ目(角膜)の近く(ほとんどが鼻側のみ)にできるのですが、白い膜状の組織の先端がくろ目(角膜)に入り込んで、視力障害を起こします。原因として、太陽から降り注ぐ紫外線が以前から指摘されています。進行したとき、手術療法の対象となります。 ビトー斑(Bitot)とは、瞼裂斑に一致する部位の結膜が白色に変化し、石鹸の泡のように見えるものです。ビタミンA欠乏症の1つの所見です。 5、000人余りのアフリカの小児を対象とした研究によると(参考文献2)、両眼にビトー斑がある場合、ビタミンA欠乏症の典型的所見と判断してもよいそうです(成人には当てはまらないことがあります)。因みに、アフリカでは0才-5才児だけで、15万人の失明者が暮らしています。平均寿命を50年とすると、失明者750万人と推定されます。ビタミンAが欠乏すると、眼表面が乾燥・瘢痕化し失明します。ビタミンA欠乏症は、アフリカなどでは予防可能な失明原因の1つです。 また、栄養状態の改善だけで、年間100万人-200万人の乳幼児(0才-4才児)を死から救うことができるのだそうです。 参考文献 1) 熊谷直樹,他: 角膜上皮疾患の分類と病名の新しい概念. 臨床眼科増刊号. 1997;51(11):9-12.  2) Wilson MR,他: A population-based study of xerophthalmia in the extreme north province of Cameroon, West Africa. Arch Ophthalmol. 1996;114:464-468. 以上 -----BEGIN PGP SIGNATURE----- Version: GnuPG v1.2.1 (MingW32) iD8DBQE+WHlEWKpMiVYLcIcRAmxBAJ968ZsS50NW+7HS90YmKrQHoSLdTgCfZg5B Y2tAIhr7uAOYEVTkIxaAE1Q= =syqD -----END PGP SIGNATURE-----