-----BEGIN PGP SIGNED MESSAGE----- Hash: SHA1 - -- 鉄錆(サビ)症について Sender: owner-i Precedence: bulk Reply-To: yamagk@purple.plala.or.jp Second Opinion - i@mail i@メール お問合わせの多いご質問に対する一般的な回答です。 やまむら眼科医院 山村 敏明 *作業中に鉄粉、鉄片が眼に当たったとき *受傷者の多くは金属工の方です *LASIK術後にも発生します 角膜鉄錆症  角膜鉄錆症の治療の基本は、錆が発生する前に除去・摘出し、感染予防の治療をすることですが、現状では、受傷後数日間放置し、錆がひろがってから眼科受診となることが多いのです。  鉄片を取り除くだけでは、病巣周囲に褐色の錆がリング状に残ります(錆の輪)。眼表面に異物があると(特に角膜では)、強い刺激症状が続くので、眼科医は手術顕微鏡を使って出来る限り、錆も取り除くようにします。  角膜組織に不可逆的な混濁(炎症や手術による瘢痕、感染などによる)が残り、視力が回復しないこともあるので、受傷後直ちに眼科医の診察を受けることが、とても大事です。 眼球鉄錆症  鉄イオンは、細胞に対する毒性が強いので、眼内に飛入した場合、大変危険です。放置すれば、鉄錆の拡大とともに、網膜全体が変性・萎縮し、視力・視野が著しく障害されます。網膜剥離になったり、白内障、緑内障などを併発し、放置すれば失明します。  鉄が眼内に飛入し、細菌感染症も合併すると、受傷早期から眼痛などの激しい症状を来します。しかし、感染が起こらなかったり、眼球穿通部位が側方だったり、偶然が重なると、無症状のため(ないし症状が軽く)放置される場合があります。このような場合でも(穿通部は自然に治癒・閉鎖しますが)眼内では、組織の変性が徐々に進行します。  作業中に、鉄・異物が高速で目に当たった場合、症状が軽微でも、眼科受診しましょう。 眼球銅症  異物が銅を含有する場合、放置すれば、眼球が萎縮し、失明します。眼球鉄錆症と同様に、早期の摘出手術が必要です。 今日的な問題点 1)角膜鉄錆症は、レーザー角膜内切削形成(LASIK)手術術後において高頻度で発生するとの報告が最近海外で相次いでいます。LASIK術後の鉄沈着は、1999年1月 Probstらにより最初に報告されました(症例:37歳、女性、術後6ヵ月で発見、両眼)。偽フライシャー(Fleischer)輪と命名。その後、ワシントン大学(文献1)では、発生頻度 42.2% (手術眼83眼中35眼に発生)との論文発表をしております。偽フライシャー輪による視機能障害例の報告は、国内外ともに、まだないようです(2000年10月22日現在)。角膜を削る手術操作時、金属の手術器具を使用しますが、その安全性が今後問題となるのではないでしょうか。 2)眼球鉄錆症の方は、MRI検査を絶対受けてはいけません。  医療技術の進歩とともに、わが国では多くの病院でMRIによる画像診断を受けることができるようになりました。しかし、強力な磁場の中で行う検査であるため、体内に鉄があると、大変危険です。検査の絶対禁忌(禁止)とされています。  職業が金属工である方、または、鉄工所で作業した職歴がある方は、MRI診断を受ける前に、必ず問診表にチェックを入れるか、検査担当者にお話して下さい。  眼球内に鉄が飛入したが、たまたま無症状(軽症)で放置した症例が、他の部位の病気のため、MRI検査を受け、突然視力が低下した(眼内出血)とのことです。海外での報告です。 3)不況と労災保険辞退者  鉄錆症の多くは、労働災害の業務災害に該当しますので、治療費は労災保険より支給されます。ご本人の自己負担金はゼロとなるはずです。 ところが、最近、診察時、労災手続き等の労災保険の説明をすると、治療費は自由診療(全額自分が払う)でかわまないから、業務災害にしてほしくないとの患者様が多くなりました。  作業が原因で鉄錆症になった場合、健康保険(または国民健康保険)扱いとはなりませんので、労災保険、ないし、治療費全額自己(または会社)負担のどちらかの選択しかありません。  後者を決断される理由は、  「この不況の中で労災関係の申請書を書くと、事業所に大変迷惑をかける( リストラ対象にもなりかねない)ので、労災保険を辞退したい」なのでしょうか? 労務安全情報センターのホームページを見ますと、全国では、鉄鋼業 7,831 金属製品製造業 71,286 の事業所がありますが、もちろん、その多くは従業員1~4人,5~9人,10~29人といった小規模の事業所です。  業務災害でありながら、治療費を払う受傷患者。行政がもっとしっかり指導すべきことだと思いますが、堪り兼ねて所轄労働基準局に相談しても、いつもいわゆる「お役所」的回答です。諸外国(米国など)に比べて、金属工の眼の病気に対する災害補償は立ち遅れているのではないでしょうか。  参考文献  1) Vongthongsri A.他: Corneal iron deposits after laser in situ keratomileusis. Am J Ophthalmol 127:85-86,1999 2) Talamo JH.他: Ultrastructual studies of cornea, iris and lens in a case of siderosis bulbi. Ophthalmology 92:1675-1680,1985 以 上 -----BEGIN PGP SIGNATURE----- Version: GnuPG v1.2.1 (MingW32) iD8DBQE+WHkxWKpMiVYLcIcRAvI4AJ48x5fBSE3dzudyRNlJpCf4EfMKxgCffot7 9cpQUtGRo4+yGN3pmWu3ZoQ= =LIdI -----END PGP SIGNATURE-----