-----BEGIN PGP SIGNED MESSAGE----- Hash: SHA1 - -- 新生児涙嚢炎 Sender: owner-i Precedence: bulk Reply-To: yamagk@purple.plala.or.jp Second Opinion - i@mail i@メール お問合わせの多いご質問に対する一般的な回答です。 やまむら眼科医院 山村敏明     新生児・乳幼児の流涙(涙があふれる)について     -先天性鼻涙管閉塞から新生児涙嚢炎などに移行したら      治療法の再考を- 生まれた直後から涙が出やすいとき  生後6ヵ月以下の乳幼児の約6%に、鼻涙管の閉塞による流涙症状(涙がまぶたからあふれる、うるむ)がみられるとされています(1948年,Guerryら)。 日本人の新生児における鼻涙管閉塞の頻度について 1988年から1989年にかけて、島根医科大で行われた調査によりますと(文献3)、生後1日から7日までの新生児335名中42名が、鼻涙管閉塞と診断されました。頻度は12.5%でした。いくつかの報告からも、日本では米国より多いようです。  涙は、眼の表面に栄養、酸素、免疫物質などを供給します。睡眠中以外は絶えず分泌されており、役目を終えた涙は鼻の中に流れます。まぶたと鼻腔をつなぐ通路のうち、最も鼻側を鼻涙管といいます。まぶた側には、涙小管・涙嚢とよばれる通路があり、鼻涙管に通じます。  赤ちゃんがまだ母親の胎内にいるとき、鼻涙管はもともと閉じており、胎内での発育につれて、開孔します。しかし、一部の赤ちゃんは閉塞したまま、生まれます。閉塞部位は鼻涙管のもっとも鼻側ですが、その後大多数の赤ちゃんでは自然に閉塞部が開きます(自然治癒)。  外国の報告では(涙嚢部皮膚のマッサージと抗生剤の点眼液による治療のみで、経過をみた研究)、  生後12ヵ月までに90%前後が完治いたします。具体的には、論文により100%, 94.7%, 94.6%, 93%, 88%です。 島根医科大の調査・研究では、生後1日から7日までに診断された鼻涙管閉塞の患児42名のうち、生後9ヵ月までに41名が治癒しています。治療は涙嚢部のマッサージのみでした。マッサージでは改善しなっかった1名は生後5ヵ月のときに急性涙嚢炎を来したため、鼻涙管ブジー法と抗生剤治療を受け、治癒しています。 治療をすべき状況とは: 保存的療法  母親の胎内にいるとき、鼻涙管が閉じていても、涙嚢内で雑菌が増殖することはありませんが、生後は、涙、結膜などの眼の表面の細菌が涙嚢に入り、感染症を起こすことがあります。これを、新生児涙嚢炎といいます。 ある外国の施設のデータでは、先天性鼻涙管閉塞の患児の20%に涙嚢炎がみられています。  感染症を起こすことが多いので、すこしでも目やにが出るようであれば、抗生剤の点眼液を使用して、経過をみることになります。このような治療を保存的療法とよびますが、涙嚢部のマッサージを併用することが多いようです。点眼時などに涙嚢部を皮膚面から軽く圧迫することで、涙嚢の内圧が上昇し、閉塞した部位を水圧で広げる効果が期待できます。マッサージの部位・方法などは、必ず主治医から指導を受けて下さい。 保存的療法の問題点 涙嚢炎  涙嚢内の細菌感染は治りにくいため、鼻涙管閉塞が自然治癒するまで、定期的な通院が必要となります。眼表面に逆流した細菌により、結膜炎・角膜炎を起こすことがあります。 慢性涙嚢炎 涙嚢内の炎症の大部分は、下記の緊急入院治療を必要としない、軽度の炎症です。一般的には、”慢性”の意味は、病気の期間のみを表現していますが、涙嚢炎では、このように”程度”も含まれています。しかし、菌種が変化したり、弱毒菌以外が感染すると、急性に増悪することがあり、急性涙嚢炎を来します。 急性涙嚢炎 前部眼窩蜂窩織炎 眼窩蜂窩織炎・眼窩膿瘍 ごくまれに、涙嚢周囲に感染が波及し、皮下組織が化膿し、蜂巣炎・蜂窩織炎(ホウソウエン・ホウカシキエン)とよばれる重症の感染症となります。直ちに、入院・抗生剤点滴治療などが必要です。 呼吸困難(食事、睡眠中)  鼻涙管の閉塞部が鼻腔内の方へ風船状にふくれたとき起きます。まれではありますが、これも危険な症状ですので、入院の上、眼科・耳鼻科的処置などが必要です。 手術療法  ブジーとよばれる滅菌した細い針金をまぶた側から通します。手術名は、鼻涙管ブジー法、プロービング(probing)などです。  これも外国の成績ではありますが、一回目のブジーで治癒率78%。一般的に、成功率の高い治療法です。通常は点眼麻酔のみでの施行します。  他の手術法は、鼻涙管にチューブを挿入し留置しておく方法、涙嚢から直接鼻腔にバイパスを作る手術があります。複数回のプロービングで治癒しなかった場合に適応となります。  また、鼻涙管の閉塞部が鼻腔内へ風船状に突出したときには、鼻腔側から窓を開けるように切開を加えたりします。 手術療法の問題点 再発  1回目のブジーが成功しても再び閉塞状態となることがあります。生後6ヵ月以内に多いといわれています。 偽孔形成  ブジーを鼻涙管内に進める時、直接見ることはできませんので、ブジーの方向性を確認しつつ、術者の手に感じる感覚を頼りに操作します。術者の熟練度の他に、患部周囲の解剖学的形態(個人差があります)、処置時の患児体位や体動などが偽孔形成の原因となり得ます。 保存療法から手術療法に踏み切るとき * 呼吸困難となった  * 蜂巣炎とよばれる重症の感染症となった。  * 先天性涙嚢ヘルニア(涙嚢に分泌物が大量に貯留した状態)となり、眼球を圧迫し乱視が発生したり、まぶたが開きににくくなった。  * 先天性涙嚢ヘルニアが再発する   * 涙嚢炎になった。  * 涙嚢部のマッサージをして、1-2週間様子をみたが、流涙が改善しない。    以上の症状・経過のとき、再度主治医とご相談下さい。 参考文献 1)Campolattaro BN,他:Spectrum of pediatric dacryocystitis: Medical and surgical management of 54 cases. J Pediatr Ophthalmol Strabismus 1977;34:143-153. 2) Mansour AM,他:Congenital dacryocele. Ophthalmology 1991; 98:1744-1751. 3) Noda S,他:Congenital nasolacrimal duct obstruction in Japanese infants: Its incidence and treatment with massage. J Pediatr Ophthalmol Strabismus 1991;28:20-22. 以上 -----BEGIN PGP SIGNATURE----- Version: GnuPG v1.2.1 (MingW32) iD8DBQE+WHj8WKpMiVYLcIcRAp0mAJoDvGcbRohwVwprfPqCC1K8kFgzOQCfbTiM MqSvUMS4xUmDFMCj5hP5Jqo= =tFs6 -----END PGP SIGNATURE-----